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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)58号 判決

事実及び理由

1  請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。

(一)  成立に争いのない甲第二号証によれば、本件考案は、「保護カバーの枠へ電極杆の回路に介装したマイクロスイツチの突片を、下圧し、又は下圧力の解除により、該マイクロスイツチを接断する操作片を取り付け」る構造を要件の一つとするものと認められるが、マイクロスイツチの突片を下圧し、又は下圧力の解除により、スイツチを接断できるマイクロスイツチは、きわめて普通のマイクロスイツチであり、このマイクロスイツチは、突片の圧力を受ける方向が上下方向であるから、突片の移動方向は上下方向となるのが普通である。

原告は、本件考案における「マイクロスイツチの突片を下圧し」ということには、保護カバーの自重による下圧をも含むから、操作片は保護カバーが上下方向に移動できるような構造に取り付けられていなければならないと主張する。

前掲甲第二号証によれば、本件考案の明細書に相当する実用新案出願公告昭五一―五〇七九二号実用新案公報の「考案の詳細な説明」及び図面には、本件考案の実施例として、原告主張のような構造が示されていることが認められる。しかしながら、本件考案の実用新案登録請求の範囲に規定された、本件考案の「マイクロスイツチの突片を、下圧し、又は下圧力の解除により、マイクロスイツチを接断する操作片」という構成には、操作片を水平方向に移動させ、操作片の傾斜面などでマイクロスイツチの突片を下圧し、又はその傾斜面を後退させることによる下圧力の解除により、マイクロスイツチを接断する操作片をも含むことは明らかであるので、結局、本件考案の構成は、操作片の移動方向を限定するものではなく、まして、保護カバーの移動方向を限定するものでもないので、本件考案は、その保護カバーが上下方向に移動できるような構造に取り付けられることを要件とするとはいえない。

そして、本件考案において、マイクロスイツチを、その突片を下圧し、又は下圧力の解除により、該マイクロスイツチを接断するという構成にしたことは、マイクロスイツチのきわめて普通の構成にすぎないから、格別の意義を認めることはできない。

ところで、成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例には、殺虫器の引出し取付装置において、引出し15の移動によつて導体の回路に介装したスイツチ要素18の操作片を突片(突出絶縁棒)17で動かし、スイツチ要素18を接断する構成が示されていることが認められるから、この第一引用例のスイツチを本件考案のマイクロスイツチの如くすることは、当業者が適宜にしうる設計的事項であるというに妨げがない。

(二)  原告は、相違点(2)について、第一引用例における引出しと本件考案における保護カバーとは、目的、構造、効果のいずれにおいても相違する別異の部材であるから、これに取り付けられた操作片によつてマイクロスイツチの突片を操作する点が共通していても考案の容易性を判断する資料とはなりえないと主張する。

しかしながら、審決は、相違点(2)について、本件考案と第一引用例のものとを対比し、両者は、取外し自在の部材に取り付けた操作片(第一引用例における突片。以下、本項での括弧内は第一引用例のものを示す。)によつてマイクロスイツチ(スイツチ要素)の突片(操作片)を動かし、マイクロスイツチ(スイツチ要素)を接断するようにした殺虫器である点において同一の技術的思想に基く考案であるが、取外し自在の部材が相違していると判断しているのであつて、引出しと保護カバーとに、目的、構造、効果に相違するところがあつても、第一引用例のものを本件考案の進歩性の判断の資料とすることは何ら誤りでない。

また、原告は、本件考案における保護カバーの枠の左右縦枠材と枠体との掛止は、保護カバーの掛止片と枠体の掛止孔によるものであり、枠体は「中央部へ多数の電極杆を並列設置した枠体」を要件とし、左右縦枠材は「縦横の細杆により、所定大きさの網目を形成し、各細杆端を矩形状の枠に固着した保護カバーの枠」であるのに対し、第二引用例には、このような構造は示されていない旨主張する。

しかしながら、前掲甲第二号証によれば、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、「保護カバーの枠の左右縦枠材を前記枠体と掛止する」と記載されているにすぎず、左右縦枠材を枠体と掛止する機構としての掛止片及び掛止孔は考案の要旨となつていないから、この点に関する原告の主張は理由がない。更に、前掲甲第三号証によれば、第一引用例のフレームも、中央部へ多数の帯電グリツドを並列支持しているものであり、また、縦横の細杆により所定大きさの網目を矩形状に形成することも、第一引用例に示されており、一方、前掲甲第四号証によれば、第二引用例には、殺虫器の保護かごを形成する細杆の端を、枠に相当するリングP′とカツプtに固着することが示されているから、第一引用例の矩形状の網目に形成された細杆の端を枠に固着することと、その枠を、取り付けられるものである網目の矩形状に合致する左右縦枠材を有するものとすることは、当業者ならばきわめて容易にしうるものというべきである。

次に、原告は、本件考案において、保護カバーの掛止構造とスイツチを接断する構造とは相互に関連し、一体不可分の関係にあるものとして構成されているから、第一引用例及び第二引用例のもののように本件考案とは構造を異にする二つの考案から、本件考案をすることはきわめて困難であると主張する。

しかしながら、本件考案における保護カバーの掛止構造が上下方向に移動できるもののみに限定されないことは前述のとおりであるから、原告の右主張は、その前提において誤つており、また、本件考案が第一引用例及び第二引用例のものから想到できない格別の作用効果を奏するものとも認められないので、本件考案が第一引用例及び第二引用例のものから当業者がきわめて容易に考案をすることができないものであるとはいえない。

(三)  以上のとおりであるから、本件考案は第一引用例及び第二引用例のものに基いてきわめて容易に考案をすることができるものとした審決の判断は正当であり、審決には、原告の主張するような違法はない。

3  よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとする。

〔編註〕本件考案の要旨は左のとおりである。

枠体の中央部へ多数の電極杆を並列設置し、この電極杆に高電圧を印加して接触する虫類を殺すようにした殺虫器において、縦横の細杆により、所定大きさの網目を形成し、前記各細杆端を矩形状の枠に固着して保護カバーを構成し、前記保護カバーの枠の左右縦枠材を前記枠体と掛止するとともに前記保護カバーの枠へ前記電極杆の回路に介装したマイクロスイツチの突片を、下圧し、又は下圧力の解除により、該マイクロスイツチを接断する操作片を取り付けてなる殺虫器における保護カバー取付装置。

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